Ⅰ.離婚最大の被害者は子供で、子の保護こそは離婚最大の課題だから、法はどのように保護しているのか。
離婚の効果と子への配慮は最大の離婚の問題である。離婚後の現実は非常に厳しくなるからである。
つまり、離婚の効果として夫婦関係の解消だけでなく、可哀想なことになるのは子供である。
周辺で泣かなかった小さな子供の例を知らない。
そこで民法は、離婚による迷惑をこうむる子への配慮として離婚時の親権者の決定、離婚時の監護権者の決定、子の引き渡し請求、離婚後の面会交流、離婚後の子の養育費などを不十分ながら定めているが、一般的な母子家庭の貧しさと法の定めが機能していない現状を踏まえて福祉方面からの救済が一層求められる。
また、民法そのものも離婚を子の福祉の観点から、民法学会で言われている案を踏まえて、法改正する必要があろう。
ただし、離婚した配偶者には相手方配偶者の相続権は無くなるが、子供には残る。しかし、熟年離婚はさておき、若い時の離婚ではその恩恵に浴するのは子が独立して高齢になってからのことが多いので、本当に必要な時には功少ない。
1.親権者・監護者の指定
(1)親権者
離婚により共同親権から単独親権になる。
両親の離婚を経験する子は、毎年23万人を超えている。
母が親権者になる割合は8割を超えている。(2011)
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
家事事件手続法
◆第六十五条 家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。
◆(陳述の聴取)
第百六十九条 家庭裁判所は、次の各号に掲げる審判をする場合には、当該各号に定める者(第一号、第二号及び第四号にあっては、申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。…
二 親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判の取消しの審判 子(十五歳以上のものに限る。)、子に対し親権を行う者、子の未成年後見人及び親権を喪失し、若しくは停止され、又は管理権を喪失した者
◆監護の実績・継続性の尊重、子の意思の尊重(10歳前後)、母性、別居・離婚後の親子の交流の許容性、この奪取の有無等が重要な判断材料になって親権者が決定される。
きょうだいの不分離は重視されない。
(2)監護権
親権者とは別に実際の子の監護をするものを決めることができる。
別居中も可能である。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
2.子の引き渡し請求
(1)家事事件手続
・子の監護に関する処分
766条1項・家事事件手続法39条別表第2③の適用
離婚前であれば、離婚に至るまでの暫定的な処分として可能である。
離婚後は、親権者が子の監護に関するとして子の引き渡しを求めることが可能である。
・審判前の保全処分
家事事件手続法105条により、急迫の危険を防止するために本案の認容蓋然性が高い時に子の引き渡しを求める。
(2)人身保護請求
1980年の家事審判法改正で審判前の仮処分に執行力を持たせてからは、家裁調査官や技官などの科学的調査機能と後見的機能を持つ者がかかわるのが本来であり、あくまでも緊急の暫定的措置で、違法性の極めて高い時に限定されるべきであろう。
実際に件数は激減した。
人身保護法2条
法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。
◆夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づいて請求した場合に、拘束者による幼児の監護・拘束が権限なしにされていることが顕著であるということができるためには、拘束者が監護することが子の幸福に反することが明白であることを要する。(最判平5・10・19民集47-8-5099)
◆拘束者が監護することが子の幸福に反することが明白である場合とは、家事審判規則五二条の二または五三条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分または審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者がその仮処分に従わない場合、また拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、幼児に対する処遇が親権行使の観点からみても容認できない例外的場合である。(最判平6・4・26民集48-3-992)
(3)子の引き渡しと執行方法
家裁の履行勧告(家事事件手続法289条)、間接強制、動産に準じた直接強制(民事執行法169)が認められる。
(4)国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約
国内法が2013年に制定「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」
3.面会交流
(1)実務上の面接交渉権を2011年に明文化(766条)
別居中の夫婦にも適用される。
親権者・監護者でないために子を現実に監護や教育できない親が子と会ったり手紙や電話で交流する。
親の権利であり義務でもあり、親の養育を受ける子の権利でもある。
◆婚姻関係が破綻して父母が別居状態である場合であっても、子と同居していない親が子と面接交渉することは、子の監護の一内容である。別居状態にある父母の間で、面接交渉につき協議が調わないとき、または協議することができないときは、家庭裁判所は、766条を類推適用し、家事審判法九条一項乙類四号により、面接交渉について相当な処分を命ずることができる。(最決平12・5・1民集54-5-1607)
(2)面会交流を認める基準
この福祉を害する恐れのない限り認める。
具体的にどのような内容にすべきか考慮要素は、子どもの意思や年齢、親としての適格性、配偶者からの暴力の有無、父母の感情の葛藤・子の精神的安定、新しい家庭生活での安定等である。
(3)祖父母・兄弟姉妹の交流
祖父母・兄弟姉妹の交流は諸外国では制度化されるようになってきたが、わが国では事例も乏しい。
(4)面会交流の実現
直接的交流・面会の施行・第三者の立ち合いや指導・手紙等の間接的交流があり、家裁の履行勧告、間接強制もある。
4.養育費
(1)親の扶養義務
親は子を扶養する義務がある(877条)。
親権の有無も順位も関係ない。
再婚しても同じである。
養育費の取り決めは全体の8割以上であるが、そのうちの約8割が1~6万円である。
母子世帯では、実際に支払いを受けている・受けたことがあるがいずれも2割未満である。
かなり厳しい現実がある。
児童扶養手当や自治体の上積み援助等に頼っており、離婚母子家庭の平均年収は223万円で、一般の約3割3分である。(2011)
(2)扶養の程度
生活保持義務である。
成年の大学生の場合は、生活扶助義務が基本であろうが、一定の配慮が必要であろう。
(3)請求方法
別居中であれば婚姻費用分担請求で、離婚であれば監護費用(養育費)の分担請求になる。
この場合に離婚訴訟であれば附帯請求が可能である(人事訴訟法32条)。
(4)具体的算定方法
「簡易迅速な養育費等の算定を目指して~養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」が実務では利用される。
算定の基礎とする収入が税金・社会保険料ほかを控除する結果、総収入の40%程度になっていることや個別事情が反映されにくいなどの問題がある。
例えば、子が4人以上、義務者も子を監護している場合等である。
(5)養育費の履行確保
家裁の履行勧告・履行命令(家事事件手続法289)、不履行と将来の給付を含めた強制執行も可能である(民事執行法151の2)。
養育費の給与差押えは禁止範囲が3/4から1/2に縮小されたので借金の返済があるときは1/4を超え1/2まで優先可能になっている。
また、間接強制も可能である。
※なお、2016年秋以降の国会で養育費の支払い確保の立法措置が取られる可能性がある。
Ⅱ.離婚すればどうなるのか。離婚にうまいやり方はあるのか。死後離婚もできるのか。
離婚をめぐる基本的な論点に、離婚できないこともあるのか、離婚の効果はどのようになるのか、近似話題になっている死亡による婚姻解消である「死後離婚」とは何か、離婚の種類としてどのようなものがあるのかなどがある。
死後離婚は、相談が多い。現時点でも、少なくとも団塊の世代の一般的な意識として、結婚が「家」と「家」の結びつきであって、「嫁」として家に入れば、そこで一生尽くすべきであるとの考えがあろう。それが妥当な場合も多いであろうが、望まない過剰な結びつきの場合もあろう。その時は、この死後離婚の制度が民法にあってそれを利用する。もっとも、配偶者の死亡時には、相続人であっても、代襲相続権は子供にしかなく、死亡後には相続におけるメリットはない。改正相続法における「特別の寄与」制度くらいであろう。
第一〇五〇条
① 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。…
(親族の範囲)
第七二五条
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族 二 配偶者 三 三親等内の姻族
1.離婚とは
離婚は、婚姻の解消のことである。
婚姻の解消は、当事者一方の死亡や婚姻の取り消しによっても生じる。
民法が、離婚を認めるのは破綻した婚姻から当事者を解放するためであるが、離婚によって経済的に困るものを救済する財産分与制度や養育費制度などを設けている。
2.当事者一方の死亡による婚姻解消の法的効果
(1)第七百五十一条
夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
復氏届は年間約2000件。
(2)第七百二十八条
姻族関係は、離婚によって終了する。
夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
これがいわゆる「死後離婚」である。
相続おもいやり相談室でも相談が多い。死後に、相手方親族とも完全に縁を切りたい方が増えてきている。
姻族関係終了届は年間約2000件。
(3)生存配偶者が未成年者の親権者になる。
(4)生存配偶者は、相続人になる。
3.離婚の種類
離婚の種類は、民法の定めるもの、家事事件手続法の定めるものと人事訴訟法によるものがある
(1)「民法」の定めるもの
①協議離婚
「第七百六十三条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」
戸籍法の定める離婚届けという届け出をする。
戸籍係には、実質的な審査権がなく、一方的な離婚届、仮装離婚を防げない。
財産分与や養育費に協議が不十分でも離婚届けが出る。
そこで、平成19年に戸籍法で次の不受理申し出制度が整備された。
戸籍法
「第二十七条の二 市町村長は、届出によつて効力を生ずべき認知、縁組、離縁、婚姻又は離婚の届出(以下この条において「縁組等の届出」という。)が市役所又は町村役場に出頭した者によつてされる場合には、当該出頭した者に対し、法務省令で定めるところにより、当該出頭した者が届出事件の本人(認知にあつては認知する者、民法第七百九十七条第一項 に規定する縁組にあつては養親となる者及び養子となる者の法定代理人、同法第八百十一条第二項 に規定する離縁にあつては養親及び養子の法定代理人となるべき者とする。次項及び第三項において同じ。)であるかどうかの確認をするため、当該出頭した者を特定するために必要な氏名その他の法務省令で定める事項を示す運転免許証その他の資料の提供又はこれらの事項についての説明を求めるものとする。
○2 市町村長は、縁組等の届出があつた場合において、届出事件の本人のうちに、前項の規定による措置によつては市役所又は町村役場に出頭して届け出たことを確認することができない者があるときは、当該縁組等の届出を受理した後遅滞なく、その者に対し、法務省令で定める方法により、当該縁組等の届出を受理したことを通知しなければならない。
○3 何人も、その本籍地の市町村長に対し、あらかじめ、法務省令で定める方法により、自らを届出事件の本人とする縁組等の届出がされた場合であつても、自らが市役所又は町村役場に出頭して届け出たことを第一項の規定による措置により確認することができないときは当該縁組等の届出を受理しないよう申し出ることができる。
○4 市町村長は、前項の規定による申出に係る縁組等の届出があつた場合において、当該申出をした者が市役所又は町村役場に出頭して届け出たことを第一項の規定による措置により確認することができなかつたときは、当該縁組等の届出を受理することができない。
○5 市町村長は、前項の規定により縁組等の届出を受理することができなかつた場合は、遅滞なく、第三項の規定による申出をした者に対し、法務省令で定める方法により、当該縁組等の届出があつたことを通知しなければならない。」
また、平成23年に民法の改正で、次のように離婚に際して面会交流や養育費の分担規定が置かれたので離婚届けには強制ではないが、そのチェック欄が設けられた。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
「第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。」
なお、面接交流は約5割は一度もなく、約6割は養育費を一度も受けたことがない(2011年)。
②裁判離婚
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
※不貞な行為とは、配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の自由な意思に基づくものであるか否かは問わない(判例)
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
※妻が婚姻関係の破綻について主たる責任を負い、夫からの扶助を受けないようになったのも自ら招いたものである場合においては、夫が妻と同居を拒みこれを扶助しないとしても、悪意の遺棄に当たらない。(判例)
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
※失踪宣告は7年かかる(民法31条)
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
※夫婦の一方が不治の精神病にかかっている場合でも、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできる限りの具体的方途を講じ、ある程度において前途にその方途の見込みのついた上でなければ、離婚の請求は許されない。(判例)、
妻が精神病にかかり、回復の見込みがなく、また妻の実家が療養のための経済的能力があり、一方夫の生活が必ずしも裕福でない等の事由がある場合は、二項による離婚請求を棄却できない(判例)。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
※破綻事実の認定と継続しがたいかどうかの法的評価が必要である。
具体的には、他方配偶者の暴行・虐待、重大な侮辱(モラハラ)、犯罪、浪費癖等協力扶助義務の著しい違反、性生活上の異常、不一致や性交不能、価値観・生活感覚の不一致、愛情の喪失、他方配偶者の親族との不和、アルツハイマーなどの難病、過度の宗教活動、DV等。
熟年離婚は、この条項に当てはまるか否かであるが、それ単独の判例基準はない。
有責配偶者の離婚請求もこの条項の問題である。
夫婦が相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、離婚により相手方がきわめて苛酷な状態におかれる等著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもってその請求が許されないとすることはできない。(最大判昭62・9・2)とした判例がターニングポイントであった。
その後は、別居は8年前後がメルクマールになりつつあり、未成熟子は絶対要件でなくなり、高額の財産分与が目立っている。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
離婚の訴えが認められて判決が出れば離婚できる。
(2)「家事事件手続法」の定めるもの
③調停離婚
(調停前置主義)
第二百五十七条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
(調停の成立及び効力)
第二百六十八条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
④審判離婚
(調停に代わる審判の対象及び要件)
第二百八十四条 家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(調停に代わる審判)をすることができる。
(3)「人事訴訟法」の定めるもの
⑤訴訟上の和解による離婚
⑥請求の認諾による離婚
第三十七条 離婚の訴えに係る訴訟における和解(これにより離婚がされるものに限る。)並びに請求の放棄及び認諾については、第十九条第二項の規定にかかわらず、民事訴訟法第二百六十六条 (第二項中請求の認諾に関する部分を除く。)及び第二百六十七条 の規定を適用する。
⇒民事訴訟法
(請求の放棄又は認諾)
第二百六十六条 請求の放棄又は認諾は、口頭弁論等の期日においてする。 2 請求の放棄又は認諾をする旨の書面を提出した当事者が口頭弁論等の期日に出頭しないときは、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、その旨の陳述をしたものとみなすことができる。
(和解調書等の効力)
第二百六十七条 和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
⇒DATA:2011年の離婚件数は235,719件でピークの2002年289,836件から減少傾向にある。
協議離婚が87.4%、調停離婚が10%、和解離婚が1.5%、裁判離婚が1.1%である。
Ⅲ.離婚すれば、夫婦のお金はどのように分割して相手に動くのか、慰謝料はどれくらい取れるのか。
離婚における「財産分与制度」は、実務ではかなり柔軟に決められているが、パイ次第の面もある。相続権は無くなるから、公平な分割をする必要があるのだが、現実は厳しい。
(1)離婚に際しての財産分与
これは、夫婦財産の清算・離婚後の扶養・損害賠償の3つからなると考える。
しかしながら、離婚時にこの取り決めをするものは約3割でかなり低い(2011)。
別れること自体が第一目的になってしまうから。
(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
(2)夫婦財産の清算
対象となるのは、名義のいかんにかかわらず婚姻後に夫婦の協力によって取得した財産である。
自分の自由処分可能な財産で取得したものを除く。
特有財産(夫婦の一方が相続や贈与によって得た財産や婚姻前から有していた財産)は、その維持に寄与があった時のみ清算対象になろう。
事業代表者や法人名義の財産も、実質的には夫婦の共有持分が考えられるのであれば、清算対象になる。
個々の婚姻費用の分担の清算もあり得る。
⇒裁判所は当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることができる。(最判昭53・11・14)
◆債務
共同生活を営む上で発生したのであれば、日常家事債務の範囲を超えるものも考慮される。
住宅ローンのある不動産の清算の仕方は、夫名義が多いので夫がそのまま住み続けて住宅ローンを支払い、妻には金銭で支払うことが多いであろう。
または、妻に住宅を取得させて、自分は住宅ローンを負担する形での清算の仕方もあろう。
ただし、ローンが住宅の価値を上回っている場合は、処分清算になろう。
◆退職金
分与額=退職金額×(同居期間÷労働期間)×寄与度
将来の退職金も対象になる。
◆年金分割制度の導入(2007)
報酬比例部分は夫婦の合意で上限半分まで分割可能で、国民年金の第3号被保険者(被扶養配偶者)は半分の当然分割である。
私的年金は分割制度がないので、かっての判例などを参考に決めていくしかないであろう。
以上での清算の割合は、具体的な寄与分によるが、1/2が実務で多い。
(3)離婚後扶養
清算的な財産分与や慰謝料があってもなお生活に困る場合に認められる補充的なものである。
(4)損害賠償
不貞等の有責行為から生じた離婚について、不法行為責任として有責者には、損害賠償義務がある。
◆慰謝料の相場
慰謝料の額は、平均で200万円、マックスで500万円である。
財産分与がなされても、それが損害賠償を含めた趣旨と解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰謝するには足りないと認められるときは、別個に慰謝料を請求することができる。(最判昭46・7・23)
なお、暴力等による不法行為責任は別に、いわゆる離婚原因慰謝料であってこれとは別である。
(5)財産分与の実現
訴訟実務では、離婚に反対の場合でも予備的請求として財産分与を請求する。また、民事訴訟法の不利益変更の禁止はない(最判平2・7・20)。
対象財産の把握には、家裁調査官(家事事件手続法58)の調査も可能である。他に、家裁の報告制度(同289)や弁護士会の照会依頼(弁護士法23の2)もあるが実現強制手段はない。
保全処分が人事訴訟法30又は家事事件手続法105で可能である。財産分与請求権は債権者代位権や詐害行使取消権の対象でない。
◆協議あるいは審判等によって具体的内容が形成される前の財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することは許されない。(最判昭55・7・11)
◆財産分与は、分与者がすでに債務超過の状態にあり当該分与により一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、特段の事情のない限り、債権者取消権の対象とならない。(最判昭58・12・19)
◆離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は、その額が不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消される。また離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額を支払う旨の合意は、右損害賠償債務の額を超えた部分について、詐害行為取消権行使の対象となる。(最判平12・3・9)
◆課税
贈与税はない。
不動産を分与した場合は譲渡所得税が課されるのが大きな問題になっている。このサイトの別稿参照。
Ⅳ.離婚はお金の事を除けば、再婚も、相方親戚からも、氏もが自由になれる身分解放の自由主義制度なのか
1.離婚の効果その1は、「再婚の自由」
離婚すれば、その法的効果として婚姻関係の終了するので、再婚の自由が生まれる。
もっとも女性は100日間の再婚禁止期間がある(733条)。規制が過剰で法改正が予定されている。
(再婚禁止期間)
第七百三十三条 女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合
2.離婚の効果その2は、「姻族関係の終了」
相手方配偶者親戚との付き合いが亡くなる。
(離婚等による姻族関係の終了)
第七百二十八条 姻族関係は、離婚によって終了する。
(直系姻族間の婚姻の禁止)
第七百三十五条 直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第七百二十八条又は第八百十七条の九の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする。
3.離婚の効果その3は、「夫婦の氏」選択自由
(離婚による復氏等)
第七百六十七条 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
⇒これを、婚氏続称という。約4割ほどである(2011)。
(協議上の離婚の規定の準用)
第七百七十一条 第七百六十六条から第七百六十九条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。
なお、婚氏続称からやはり婚姻前の氏に戻りたいときは戸籍法の定めで可能である。判例は緩い。
戸籍法第百七条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
Ⅴ.離婚で揉める離婚協議手続における年金分割(2種類)はどうすれば揉めないのか
離婚協議における年金分割(2種類)手続について
この離婚で、最も揉めるのは、「養育費」と「年金分割」であり、慰謝料の額である。
⇒これらは、多くの論点があり、実務の観点からも理論の観点からも詳論を別な機会にしたいが、以下に「年金分割」について述べる。
※年金分割(2種類)⇒実務では必須の決定事項になっており、どちらも離婚後2年以内に請求が必要
(1)合意分割(平成19年4月~)
婚姻期間中のお互いに加入していた厚生年金について、夫婦間の合意の上、2分の1を上限として分割をする制度
・夫婦間の同意又は家庭裁判所の決定(調停、審判、裁判)が分割の前提
・分割割合は夫婦それぞれの厚生年金保険料の納付記録を合算したものの最大半分が限度
・分割の対象は「婚姻期間」
・19年4月以前の期間も分割対象
(2)3号分割(第3号被保険者期間の厚生年金の分割、平成20年4月~)
平成20年4月以降の第3号被保険者期間についての相手の厚生年金について、第3号被保険者の請求により、強制的に2分の1に分割する制度
・夫婦間の同意がなくても、請求により分割可能
・例外なく配偶者の厚生年金保険料の納付記録を2分の1に分割することが可能
・平成20年4月以降の第3号被保険者期間(給与所得者の妻の期間)のみ分割可能
⇒実務的には、(2)は請求があれば自動的に分割されるので、(1)が問題になり、
これはまず「年金分割のための情報提供通知書」を年金事務所で入手して始めるが3週間程かかる。
六.離婚協議書作成と不動産譲渡における税務上の注意点(民法と税法の齟齬で思わぬ税負担の発生)
1.離婚協議書作成と不動産譲渡における税務上の注意点
「離婚協議書」を作成するときに、依頼者からのご要望にお応じて内容を作成していくが、戸籍、住民票、関連財産調査等を実施して、財産分与に預金だけでなく不動産等の財産が入るときにはを非常に注意しなければならないことがある。
通常は、内容がまとまった段階で相手方配偶者に送付し、相手方からも委任を受けて、その要望を受けて、再度依頼者の配偶者と相談して、最終的に意見合致に基づく、離婚協議書の原案を作成して、公正証書にする段取りをつけて、公証人役場に行く。
しかしここで、一般の方には次のように不意打ちになることがある
2.離婚と財産分与における金銭以外の財産の譲渡所得税の発生に注意
京都の立命館大学の二宮教授がその著書や論文で嘆きながら指摘していたように、離婚における財産分与に金銭は贈与税の対象にならないが、金銭以外の財産は譲渡によって債務負担が減少したことから利益が生じたと国税庁は解釈して、そこで譲渡所得税が発生したとするのであるが、これが離婚法制とうまくマッチしているかといえばやはり一国の法制が基本法の民法の意図と合致していなくてチグハグの感は否めないであろう。
居住用の財産特例が不動産にはあっても、それは親族以外が取得者の法制であるから、離婚した後の譲渡にするしかないがこれが実務上すんなりと行くかはかなり疑問であろう。
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