1.【不動産の生前名義変更と遺留分侵害】
★これは、相続相談でとても多い相談の一つである。
【相談内容例】妻亡き後、自分の面倒を見てくれている次男にもう不動産名義を変えておきたい。ほぼ財産はそれだけなので。
これは本当によくある相続関連の相談の一つである。実務をやっているものはわかるであろう。
この相談で、相談者に誤解のあることがいくつかあるが、多い順にあげると
(1)名義変更は簡単であるとの誤解
これは、本当に困る。不動産の名義変更は登記申請すれば簡単にできると思っている。
つまり、適当に「売買」等としておけばいいとの考えなのでる。
確かに、登記官は形式的な審査でやるかもしれないが、契約書と現金の移動がかんたんに証明できるのであろうか。
実は無理である。
(2)名義変更は、「贈与」が原因としておけばいいとの誤解
贈与であれば、もらったほうが贈与税を払わなけばならないことを知らないこともあるが、もっと怖いのは「贈与税」の支払いである。
税務署にずっと知らない顔をできるのであろうか。
(3)他の相続人の手前、売ったことにしておけば問題ないとの誤解
これは、仮に5千万円の時価のものを5百万円で売って名義変更すれば、次男も金銭的な負担をしているから誰も後から文句は言えないであろうと考えるのである。
実務上は、微妙な事例が多々ある。そこで、今回の法改正で
「第一〇四五条
負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。」
となった。
つまり、他の相続人は、遺留分の計算で、これを500万円の負担があった贈与とみなして、4500万円の贈与があったことにできるのである。
この場合に、悪意の立証はかなり容易と思われる。
もっとも、判例は、「 相続開始約一九年前の贈与が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされたというには、当事者双方において贈与当時財産が残存財産の価額を超えることを知っていたのみならず、将来相続開始までに被相続人の財産に何らの変動もないこと、少なくともその増加のないことを予見していた事実があることを必要とする。(大判昭11・6・17)とする。
2.結論として、第一〇四四条第3項、1項等適用で、格安売買は負担付贈与となる
3項「相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。」
同条1項
「贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」
の適用で、10年より前の売買であっても含むことになろう。
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