1.成年後見制度とは、

 成年後見制度は、認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力が十分でない人が不動産や預貯金などの財産を管理したり,介護などのサービスや施設への入所契約を結んだり,遺産分割の協議をしたり必要があるときに、十分にそれができず、自分に不利益な契約を結んでしまったりすることがあるので、このような判断能力の不十分な人を保護し,支援する制度である。

民法の基本に関する行為能力に関する制度であり、民法総則に以下の規定があり、関連する重要規定が親族編第5章(八三八条以下)にある。

後見開始の審判
第七条  精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
(成年被後見人及び成年後見人)
第八条  後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。

保佐開始の審判
第十一条  精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。
(被保佐人及び保佐人)
第十二条  保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。

補助開始の審判
第十五条  精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
2  本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3  補助開始の審判は、第十七条第一項の審判又は第八百七十六条の九第一項の審判とともにしなければならない。
(被補助人及び補助人)
第十六条  補助開始の審判を受けた者は、被補助人とし、これに補助人を付する。

2.成年後見制度の種類

成年後見制度は,大きく分けると,法定後見制度と任意後見制度の2つがある。

また,法定後見制度は,上記のように「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており,判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べる。

法定後見制度においては,家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が,本人の利益を考えながら,本人を代理して契約などの法律行為をしたり,本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり,本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって,本人を保護・支援する。

この法定後見には、成人後見の他に、親がいない場合には、裁判所が後見人を選任して未成年者を保護する未成年後見もある。

任意後見制度とは,本人が十分な判断能力があるうちに,将来,判断能力が不十分な状態になった場合に備えて,あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に,自分の生活,療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおく。

そうすることで,本人の判断能力が低下した後に,任意後見人が,任意後見契約で決めた事務について,家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもと本人を代理して契約などをすることによって,本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になる。

■任意後見契約に関する法律

第二条第1号(定義)

一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
二 本人 任意後見契約の委任者をいう。
三 任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
四 任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。

3.任意後見契約の概要

任意後見契約の方式
第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

任意後見監督人の選任
第四条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
3 第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。
4 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。
5 任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。

任意後見監督人の欠格事由
第五条 任意後見受任者又は任意後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、任意後見監督人となることができない。

本人の意思の尊重等)
第六条 任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

任意後見監督人の職務等)
第七条 任意後見監督人の職務は、次のとおりとする。
一 任意後見人の事務を監督すること。
二 任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告をすること。
三 急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。
四 任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。
2 任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができる。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務に関する報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができる。
4 民法第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十九条の二、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、任意後見監督人について準用する。

任意後見人の解任
第八条 任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる。

任意後見契約の解除
第九条 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
2 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。

後見、保佐及び補助との関係
第十条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。

任意後見人の代理権の消滅の対抗要件
第十一条 任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができない。

4.任意後見の特徴

(1)本人の意思で後見人を選ぶ

法定後見は、判断能力が既に失われたか又は不十分な状態であるため、自分で後見人等を選ぶことが困難な場合に、裁判所が後見人を選ぶ制度であるのに対し、任意後見は、まだ判断能力がある程度(後見の意味が分かる程度)ある人が、自分で後見人を選ぶ制度である。

(2)契約

本人の意思で人を選び内容を選ぶので契約である。

任意後見契約とは、委任契約の一種で、委任者(本人)が、受任者に対し、将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分の後見人になってもらうことを委任する契約である。

認知症(老人性痴ほう症・ボケ)になると、自分の財産の管理ができなくなり、また、病院等で医師の治療等を受けようとしても、医師や病院と医療・入院契約を締結することができず、治療等を受けられなくなるおそれもある。

そこで、自分の判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ、自分がそういう状態になったときに、自分に代わって、財産管理や必要な契約締結等をしてもらうことを、自分の信頼できる人(任意後見人)に頼んでおくのである。これが任意後見契約である。

(3)自分で選ぶ契約の必要性

認知症等で判断能力が低下した場合、成年後見の制度により裁判所に後見人を選任してもらうこともできるが、一定の者(配偶者や親族等)の請求が必要になる。また、法定後見では、本人は、裁判所が選任する後見人と面識がないこともある。

そこで、自分が信頼する人に確実に後見人になってもらうためには、任意後見契約を締結することが必要になる。

もっとも、認知症等にならなかったら、任意後見契約は必要なかったことになり、任意後見契約書の作成費用は無駄になるが、後述のように高額のものではないのが通常である

(4)公正証書が必要

任意後見契約を締結するには、上記のように、任意後見契約に関する法律により、公正証書でしなければならない。

遺言公正証書と同じように、まず本人の意思をしっかりと第三者が確認する必要があるからである。

(5)任意後見人の仕事

任意後見人の仕事は、主に二つあって、一つは、本人の「財産の管理」で、自宅等の不動産や預貯金等の管理、年金の管理、税金や公共料金の支払い等々がある。

もう一つが、「介護や生活面の手配」で、要介護認定の申請等に関する諸手続、介護サービス提供機関との介護サービス提供契約の締結、介護費用の支払い、医療契約の締結、入院の手続、入院費用の支払い、生活費を届けたり送金したりする行為、老人ホームへ入居する場合の体験入居の手配や入居契約を締結する行為等々である。

なお、任意後見人は、介護行為そのものではないので、おむつを替えたり、掃除をしたりという事実行為はしない。

しかしながら、その他の契約の内容は、契約自由の原則に従い、当事者双方の合意により、法律の趣旨に反しない限り、自由にその内容を決めることができる。

相続おもいやり相談室でも経験があるが、医療行為への同意は出来ない。親族のみである。医師も近い親族でない後見人に同意を求めない。

(6)任意後見人の資格

成人であれば、誰でも信頼できる人を、任意後見人にすることができる。身内の者でも、友人でも構わない。ただし、法律がふさわしくないと定めている事由のある者(破産者、本人と訴訟をした者、不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由のある者(例えば金銭にルーズな人)など)は資格がない。

実際上は、当職のような民法が専門の行政書士、弁護士、司法書士、社会福祉士、社会福祉協議会等の社会福祉法人等が後見人になっている。

(7)任意後見監督人の選任から仕事がスタートで安心

本人の判断能力が衰えた場合に、任意後見人になることを引き受けた任意後見受任者や親族等が、家庭裁判所に対し、本人の判断能力が衰えて任意後見事務を開始する必要が生じたので、「任意後見監督人」を選任してほしい旨の申立てをする。

そして、家庭裁判所が、その国家公務員の仕事として、任意後見人を監督すべき「任意後見監督人」を選任すると任意後見受任者は「任意後見人」として、契約に定められた仕事を開始し始める。

公的機関で法定義務のある第三者が選ばれて入るので非常に安心である。義務的である。ここが、認知症対策として一部司法書士等が五月蠅く喧伝している信託契約との大きな違いである。

なお、法定後見が開始している者であっても、法定後見人の同意又は代理によって、任意後見契約を締結することができ、この場合、裁判所は、任意後見監督人の選任申立てがあると、法定後見の継続が本人の利益のため特に必要と認める場合以外は、選任申立てを容認しなければならない。

(8)法定後見制度よりもチェックが必ず入るのでとても安心

統計的にも出ているように、法定後見制度の運用で、親族の後見人、弁護士、司法書士、行政書士等の横領行為が非常に多いが、それが少なくなるように制度設計されている。その理由は、次の4つである。

・自分が、最も信頼できる人として、選んだ後見人だから。

・任意後見監督人が、任意後見人の仕事について、それが適正になされているか否かをチェックする。

・任意後見監督人からの報告を通じて、家庭裁判所も、任意後見人の仕事を間接的にチェックする。

・任意後見人に、著しい不行跡、その他任務に適しない事由が認められたときは、家庭裁判所は、本人、親族、任意後見監督人の請求により、任意後見人を解任することができる。

以上によれば、任意後見は、制度的に、後見人に使い込みなどをされる危険は少ないといえるので、万一のことをご心配されて、契約を躊躇するよりも、ご自分がしっかりしているうちに、ご自分の判断で、積極的に老後に備える準備をされた方が賢明といえるのではないか。

(9)財産管理契約

判断能力はあるが年を取ったり病気になったりして体が不自由になった場合に備えて、あらかじめ、誰かに財産管理等の事務を契約するのが増えている。

これは、任意後見契約でなくて、通常の「委任契約」を締結する。

そして、当職も含めて、実際には、このような通常の委任契約を、任意後見契約と組み合わせて締結する場合が多い。判断能力が衰えた場合には、この委任契約に基づく事務処理から、任意後見契約に基づく事務処理へ移行する。

(10)登記・費用

任意後見契約は、公証人の嘱託により、法務局で登記される。取引の安全のためである。

公証役場の手数料として、任意後見契約につき1万1000円が基本である。他に、印紙代などで、5千円以上かかることが多い。

また、契約で任意後見人の報酬の定めをした場合には、費用のほかに、報酬も本人の財産の中から支出され、任意後見監督人には、家庭裁判所の判断により、数万円の報酬が支払われる。

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