相続においては、まず最重要なのは誰が相続人になるかという「相続人の確定」であろう。そのうちで、本人がなりたくてもなれない場合が「相続欠格」と「相続人の廃除」である。
これを講学上「相続権のはく奪」という。
1.相続欠格
相続秩序を侵害する非行をした相続人の相続権を法律上当然にはく奪する民事上の制裁である。
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
◆遺言者の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨でされたにすぎない変造行為は、相続欠格事由には当たらない。(最判昭56・4・3)
◆遺言公正証書の正本の保管を託された相続人が、遺産分割協議が成立するまで法定相続人の一人に遺言書の存在と内容を告げなかったとしても、五号の隠匿には当たらない。(最判平6・12・16)
◆遺言書の破棄隠匿が、相続に関する不当な利益を目的としない場合は、相続欠格事由に当たらない。(最判平9・1・28)
⇒判例は「二重の故意必要説」に立つ。第5号の行為を不当な利益を目的として行う場合のみ相続欠格になる。
欠格者は、、受遺者にもなれない。(965条)
ただし、特定の相続人に関す関係でのみ欠格になる相対的なもので、かつ一身専属的なものであるから、子は代襲相続はできる。
この場合に「身代わり縁組」で養子縁組をして代襲相続させることの可能性はあるが実質的な縁組意思で問題があろう。
また、民法に規定はないが、生前贈与もできるのであるから、被相続人が欠格者を宥恕することは可能であろう。
長男が次男を殺害した事案で認めた裁判所がある(広島家事審判平成22年10月5日)。
2.相続人の廃除
欠格と違い、被相続人の意思に基づく相続資格のはく奪制度である。
遺言での被廃除者の審判中に死亡すれば、配偶者はその法的地位を引き継ぐ(東京高裁平成23年8月30日)。
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
◆老齢の尊属親に対しはなはだしい失行があったけれども、それが一時の激情に出たものである場合は、重大な非違とはいえない。(大判大11・7・25)
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(推定相続人の廃除の取消し)
第八百九十四条 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
⇒生前贈与や遺贈があれば宥恕があったものと考えていいだろう。
(推定相続人の廃除に関する審判確定前の遺産の管理)
第八百九十五条 推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。
2 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
欠格者と違い、受遺者になれる(965条)。
相対的で個別的なものであるから代襲相続は可能である。
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