遺産分割の効果として、例えば、死亡10年後に遺産分割協議が成立した時に、すでに不動産が第三者にわたっていた時や預金が少なくなっていた時に、その効果は第三者にも及び不動産の返還や預金の使った部分の返済なども可能になるのであろうか。
1.遺産分割の遡及効と第三者の保護
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
ただし、遺産分割後は対抗問題になる。
◆相続財産中の不動産につき、遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができない。(最判昭46・1・26民集25-1-90)
2019年施行改正法で明文化された。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八九九条の二
① 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
② 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
権限がなくて、預金を使っていれば、無権利法理により、その分は返還すべきことになろう。不当利得である。
なお、遺産分割前の処分について実務上重要な明文化もされた。
第九〇六条の二(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
また、分割前の預金の引き出しも明文化された。金融機関の指針も出来ている(詳しくはこのサイトの別稿参照)
第九〇九条の二(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
2.共同相続人の担保責任
分割結果に対して共同相続人間の公平を図るために担保責任を法は定めた。
第九一一条(共同相続人間の担保責任)
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
第九一二条(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
第九一三条(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
第九一四条(遺言による担保責任の定め)
前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。
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