2.改正相続法の下での『公正証書遺言』の具体的作成方法

(1)遺言原案を作成する

最も重要なポイントは、『誰にどの財産を遺したいか』であるから、自分とのどのような関係があるかを含めてメモしておく。相続おもいやり相談室等に相談するときは、それを持参するか口頭でも伝えればよい。客観的な資料を併せて収集してくれる。

(2)公証人役場との相談

相続おもいやり相談室でのこれまでの経験で行くと、公証人に結構厳しく或いは冷たく言われたといって当職に依頼してくる場合が結構ある。やはり一般人が慣れない法律用語を聞くことや自分の意思を伝えることは困難であろう。元の経歴がほとんど出世した裁判官や検事なのでやむを得ない面もあるが、公証人はもう少し親切にしてあげることがあるといいだろう。

当職に依頼があれば公証人役場へは当職一人で行き全ての打ち合わせをする。

(3)公正証書遺言作成に必要な主な資料

・遺言者の本人確認資料(通常は印鑑登録証明書である。顔写真のある運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなどでも足りる)
・法定相続人を確定するために遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本・改製原戸籍謄本
・財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票(法人の場合には資格証明書)など
・財産の中に不動産がある場合には、その登記事項証明書(全部事項証明書)と、固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書
・金融資産の金融機関名・口座番号に関する資料(預貯金通帳のコピーなど)
・保険証券のコピー
・遺言執行者の住民票
・菩提寺、その他祭祀に関する資料など
・証人の運転免許証等、写真入りの身分証明書のコピー

(4)公証人が作成した文案の確認

公証人が、2、3週間程度で文案を作成し、事務方がワープロ打ちしたものができるので、連絡があれば内容を確認し、訂正があれば伝える。何度かやり取りすることになる。いちから公証人が作ってくれると勘違いしないことである。相続おもいやり相談室の当職の経験では、まれに間違って内容が伝わっていた場合や明らかに計算が合わなかった時などがあった。

(5)公正証書の作成日を検討する

本人、原案作成の法律家、証人、本人の付添人等の都合が一斉に合わないと出来ないので、これが結構調整に手間かかる。

(6)証人2名の依頼

公正証書の作成当日に証人として立ち会ってくれる人2名に依頼する。証人になれないのは、未成年、相続人や受遺者とその配偶者、相続人や受遺者の直系血族(祖父母、両親、子ども、孫)などである。

適当な人がいなければ、公証役場に紹介してもらってもよいが、役場の相場は1人あたり1万円である。

なお、通常は遺言者が高齢の時は、付添に相続人や受遺者がついてくるが、公証人の前に座れないので、遺言書作成時間中は控室にいてもらい、相続おもいやり相談室では、公証人に頼んでせっかく来てもらったので、説明を簡単に公証人にしてもらっている。

※なお、この時に弁護士が証人になっている場合が相続おもいやり相談室では多いが、紛争時になってもその相続人からの証人弁護士への委任は当該弁護士の利益相反にはならないようである。当該者は倫理違反とならないかも含めて所属弁護士会に問い合わせるであろう。

(7)当日の公証役場での手順

遺言者は、実印(印鑑登録証明書で本人証明する場合。運転免許証等で本人確認する場合は認印でも可能。)と手数料および立会証人のお礼の現金が必要である。

※なお、当職の実務上の経験で、数人の公証人が作成したが、一度も実印でなかったことはない。公証人も不安なのであろう。確実な方を取りたい欲求が強いのと慣行もあろうか。

この場合に、打ち合わせ段階で公証役場に支払う手数料は、見積額を教えてもらえるが、枚数が多くなったら追加で払うことが多い。

公証人の前に、遺言者が座りその隣に証人2人が座って、作成が始まる。現在の実務では、遺言をする人が口授するのを公証人が書くのではなくて、公証人が作成した遺言書を公証人が読み上げて、適宜公証人から名前、生年月日、職業等を質問するので、それに答えながら作成される。その場での訂正は意外とあるが、公証人と事務方がその場で修正するが慣れているので速い。最後に遺言者と証人がそれぞれ遺言書の末尾に署名・押印して完成する。遺言書は原本が半永久的に公証役場に保管され、正本は執行者がいれば執行者に渡し、謄本は本人が持ち帰る。

※遺言者本人に、謄本が渡るのであるが、この謄本は誰にも見せるべきでない。ほぼ確信をもってそう言える。「人の口には戸が立てられない」のである。また、身近な兄弟姉妹などの親族や遺贈を期待していたもの等は自分に相続財産に相当るものから取り分がなかった或いは少なかった時に激怒することもしばしばである。不労所得でしょうが。原案を当職が創作したわけでなく、本人が自分の財産を自由に処分するのが原則で、それを基に原案を作成したにもかかわらずだ。

(8)公証人の出張作成

相続おもいやり相談室では、この出張も当然ある。病院にいる場合や施設入所の場合はこの形をとっている。公証人は、自己が所属する法務局・地方法務局の管轄外で職務を行うことはできないので、その地域の公証人にお願いしている。

(9)公証人に支払う手数料

公正証書遺言の作成費用(公証人の手数料)は、法令により定められていて、下記の表のように全国一律である。

注意すべきは、財産を受ける人ごとに、その財産の価額に対応する手数料額を求め、合計するので、パッと見て早とちりをして安く考えないようにしよう。

財産が1億円以下のときは、遺言加算として、1万1000円が加算されるのも意外感があろう。用紙代として数千円程度かかる。

(公証人手数料令第9条別表、日本公証人連合会HP一部引用)

(10)正本・謄本の紛失

これらを紛失した場合でも、原本が公証役場に保管されているため、遺言者が申し出れば新たに謄本を発行してもらえる。

1989年以降に作成された公正証書遺言であれば、作戌した公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日等をコンピューターで管理しているので、全国どこの公証役場でもすぐに調べられるので、遺言者の死後、相続人が公正証書遺言の有無を調べようとするときは、遺言者が死亡したことを証する事実の記載があり、かつ、遺言者との利害関係を証明できる記載のある戸籍謄本と、自分の身分証明書(マイナンバーカードなど)を持参すれば入手できる。

※実務の変化

以前は、遺言書の原本を保管する公証役場に行かないと発行できなかったが、2019年4月1日から、原本を保管する公証役場が遠隔地にある場合には、最寄りの公証役場で手続をすることによって、正本または謄本を郵送で請求できるように変更された。

なお、自筆証書遺言の場合と違って、家庭裁判所の検認手続を受けずに、そのまま遺言書の正本または謄本を使って相続手続をすることができる。

2.改正相続法の下での『秘密証書遺言』の具体的作成方法

遺言書内容自体は自分で作成する。

①用紙

横書き、縦書きいずれでも可能で、使用する紙や筆記用具にも決まりはない。

②署名以外は自筆の必要ない

全文を手書きする必要はなく、第三者に代筆してもらったり、パソコン等を利用して作成することも可能である。民法上は必ず署名だけは自筆で行い、押印することを忘れない。

この内容を作成の段階で、できれば法律家の支援を仰いだ方がよい。公正証書遺言と違い公証人も、遺言書の内容に全く関与しない。この点も誤解のないように。遺言書の内容に法律的な不備が十分にあり得る。法は面倒だ。将来紛争の種になったり、無効となったりする危険性がないとはいえない。

せっかく作るのだから、できれば、コンサル的にでも遺言書方式・内容両面で問題がないか、確認若しくは原案の作成を依頼したうえで、しかも遺言執行者になってもらうなどして確実に遺言内容が実現できるようにしよう。

③封書に入れるのも必須

遺言書を封筒に入れて封をし、その部分に遺言書に押したものと同じ印鑑で押印する。法律上は封筒入れを要求されないここが自筆証書遺言と違う。

④公証役場との手順調整と作成

公証役場に相談のうえ作成日を予約し、証人2人に依頼する。持参品は、封印した遺言書と本人確認用の資料(印鑑登録証明書など)、実印、手数料等の現金である。証人は、身分証明証と認印を持参する。

役場では公証人の指示に従って申述を行い、最後に遺言者・証人が署名・押印する。

この秘密証書遺言書は原本が1通しかなく、公証役場では保管されないため、自分で保管する必要がある。改正相続法の下での保管システムも自筆証書遺言のように用意されていない。

⑤検認手続き

相続発生後の手続自筆証書遺言と同様、遺言書を発見した人が家庭裁判所に届け出て、検認手続を受ける必要がある。

3.遺言の取消し・修正

(1)遺言書は自由に取り消せる

遺言者の最終意思が遺言後の事情の変化などから変えたいときに、法律上は変更や取消しは、いつでも、また、何回でもできる。平均寿命は延びる一方であるから、預貯金の費消や不動産の売却等は十分にあり得る。ここでも遺言作成時に繰り返し述べたように、遺言書の撤回や変更であればなおさらのこと、なるべく早めにすることが重要で、変更したいと持っているうちに命が尽きたり、認知症になり判断能力が低下したりすれば、もはや遺言を変更することが不可能になるからである。

(2)遺言の撤回方法

民法の用意した【みなし規定】

民法には、遺言が撤回されたとみなされる規定があり(民法1023条、1024条)、これに該当する場合は、あえて撤回の遺言を作成する必要はない。

例えば、遺言書に記載された財産が、売却などで無くなってしまった場合、その部分は撤回されたことになるので、遺言書を書き直してもよいが敢えて書き直す必要はない。

また、実務でよく問題になるのに、自筆証書遺言の場合、原本を破り捨てれば撤回したことになるし、前に作成した遺言書と内容が矛盾する遺言書を新たに作れば、その部分は撤回したことになる。混乱を避けるために前に作成した遺言書は、物理的に破棄したほうがよい。

なお、公正証書遺言の場合、手元にある正本や謄本を破り捨てても、原本が公証役場にあるので、撤回したことにならず、「前に作成した遺言を撤回する」という旨の公正証書遺言または自筆証書遺言を作成する必要がある。相続おもいやり相談室の当職では数回この経験がある。

(3)遺言の変更方法

遺言書の一部だけ変更したいという場合は、当該箇所のみの遺言書を作成すればいい。ただ、京都東山のかばん屋事件のようなこともあるので、特に自筆証書遺言の場合は、複数の遺言書のどれが有効か争われる可能性を考えると、やはり全部書き直して前の遺言書を破棄する。

公正証書遺言の場合、同じ公証役場で作成し直すのであれば、全部書き換えるのがよい。公証人の手数料は変更部分のみで計算するので、全部書き換えても手数料は変わらない。もっとも、本当の一部だけでなく全体的に変更になる場合も多く、相続おもいやり相談室の当職では全く新しい全部直しが多い。また、遺言執行者としてもこの方がありがたい。一つだけで済むので執行しやすい。

4.実務で増えそうな成年被後見人の遺言(民法973条)

(1)成年被後見人も遺言書を作れる

成年被後見人は、事理を弁識する能力を欠く常況にある者(民法7条、8条)だが、疾患によっては判断能力が
戻ることもあるため、事理弁識能力(判断能力)を一時回復した場合は、遺言をすることができる。

要件としては、医師2人以上の立会いがあり、その医師により、遺言者が遺言時に精神上の障がいにより事理弁識能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記し、署名・押印することになる。

■第九七三条(成年被後見人の遺言)
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

(2)遺言の内容には制限

成年被後見人は、どのような遺言でもできるわけではなく、成年後見人に利益になる遺言はできない。被後見人(未成年者も含む)が、後見の計算の終了前に、後見人またはその配偶者もしくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は無効とである。ただし、受遺者が、遺言者の直系血族、配偶者または兄弟姉妹が後見人である場合には適用されない。

■第九六六条(被後見人の遺言の制限)
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。

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NKoshin
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