遺言の執行は公正証書遺言であれば、遺言執行者の選任が済んでいるのが通常であるがそれでも相続人との関係、不動産登記、金融機関との折衝等実務上の問題点が山積みであって、自筆証書遺言の執行に至っては、家庭裁判所の手続きから入らなければならず、そこでの検認、遺言書の開封から、遺言執行者の選任と遺言の執行、遺言執行者と相続人の関係構築など実務上は非常に煩雑である。
1.遺言の執行とは
遺言の執行とは、被相続人の死後に遺言内容を実現する手続きのことである。
遺言内容によって様々手続きが必要になる。
遺言執行人は、その資格が限定されていない(未成年者と破産者を除く)が法律の専門家に依頼しないと混乱することが多いであろう。
例えば、執行人が特に何もする必要ないものとして、未成年者後見人・未成年後見監督人の指定、相続分の指定、遺産分割の禁止等があり、相続実務上の確立した「相続させる」旨の遺言のように、無権利の占有や登記などがない限り、執行行為がなくても当然に相続人に権利が移動するものもあろう。
しかしながら、遺贈は遺言執行者の活躍の必要性が高くなり、無権利所の占有の排除を不動産について求めたり、勝手に不動産等の登記名義を変更した者や差し押さえ仮登記等を抹消させるなどの手続きも必要になり、あるレベルの法的知識が不可欠になる。
昨今は、相続に関わる士業や会社さらには団体・個人が多いが、特に相続に詳しい法律専門家士業以外は適正な処理は難しいであろう。
せっかく遺言で相続紛争を防止しようとしたのに、執行をめぐるトラブルも多いのである。
2.遺言執行の準備手続き
(1)検認
検認は、遺言書の現状を確認し、証拠を保全する手続きである。
遺言書を有効と確認する手続きではない。
遺言書検認調書を裁判所が作成する。
遺言書はその後に返却される。
(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
※家事事件手続法(調書の作成)
第二百十一条 裁判所書記官は、遺言書の検認について、調書を作成しなければならない。
(2)開封
(遺言書の検認)
第千四条 3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
(3)相続人への通知
下記の手続きは、公正証書遺言書にはない。
それが「相続させる」旨の遺言であれば、他の相続人が知らないところで遺産処理が済んでしまうことになろう。
(遺言書の検認の期日の通知等・法第二百十一条等)
第百十五条 裁判所書記官は、申立人及び相続人に対し、遺言書の検認の期日を通知しなければならない。
2 遺言書の検認がされたときは、裁判所書記官は、遺言書の検認の期日に立ち会わなかった相続人、受遺者その他の利害関係人(前項の規定による通知を受けた者を除く。)に対し、その旨を通知しなければならない。
3.遺言執行者の選任と解任・辞任
(1)選任
遺言者による指定(1006条)、遺言で委託されたものによる選任(1006条)、家庭裁判所による選任(1010条)があり、中川総合法務オフィスでは指定が多い。
万一に備えて複数が望ましい。
受遺者や相続人もなることは可能であるが公平な処理が難しいであろう。
家裁への申し立ては2000件ほどある。
(遺言執行者の欠格事由)
第千九条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
(遺言執行者の指定)
第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の選任)
第千十条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
(2)就職の承諾
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
(遺言執行者に対する就職の催告)
第千八条 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
(3)解任・辞任
(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
4.遺言執行者の権利義務
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
(遺言執行者の地位)
第千十五条 遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
(受任者による報告)
第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
(受任者の金銭の消費についての責任)
第六百四十七条 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(受任者による費用等の償還請求等)
第六百五十条 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
(遺言執行者の復任権)
第千十六条 遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、第百五条に規定する責任を負う。
(復代理人を選任した代理人の責任)
第百五条 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。
2 代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。
(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)
第千十七条 遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
(遺言執行者の報酬)
第千十八条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 第六百四十八条第二項及び第三項の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
(受任者の報酬)
第六百四十八条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
3 委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
(遺言の執行に関する費用の負担)
第千二十一条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
【遺言執行上で実務上問題となるケース】
◆遺言者の貸金庫の開閉
◆遺言者の預金の払い戻し
◆受遺者の選定
◆遺産分割協議への介入
◆債務の弁済と相続財産の処分
5.遺言執行者の適正な執行を行うための留意事項
①訴訟以外に遺言書の真実性を担保させる制度がない
②自己権限の正当性を証明
③相続人の正当な利益に配慮する
6.遺言執行者と相続人の関係
(1)相続人の処分権の制限
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
ただし、遺言内容が不特定物の特定遺贈、特定財産を処分した中から一定の金額を与える遺贈、分数的割合による包括遺贈、残余遺贈などの場合は広範囲に相続財産を管理する必要があるので、1014条の適用範囲外であり、相続人の処分が限定される。
(2)相続人の処分行為の効力
◆遺言執行者ある場合、相続人が相続財産につきした処分行為は、絶対無効である。(大判昭5・6・16)
◆相続人が、遺言執行人があるにもかかわらず、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し、またはこれに第三者のため抵当権を設定して登記したとしても、相続人の右処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方たる第三者に対抗できる。
ここで、「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含む。(最判昭62・4・23)
⇒遺贈の場合は、通常は対抗要件を取得しなければ第三者に対抗できないが、遺言執行者がいればそれは不要になることに大きなメリットがあろう。しかし、遺言の真実性の問題は依然として残る。
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