heritage-division-property
1.相続財産(不動産等物権・預貯金等債権・果実・代償財産等)
相続財産として、法定果実や火災保険金などの代償財産も対象になる。
建物引渡請求権や引渡義務などの不可分債権・債務は共同相続人全員に帰属する。
2.可分債権
◆相続財産中の可分債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する。(最判昭29・4・8民集8-4-819)
⇒この判決の相続分は、法定相続分のことである。
よって、金銭債権については、各相続人は法定相続分に応じた共有持分を有し単独行使が可能である。
ただし、銀行実務では遺産分割協議書などに印鑑証明を全員の者を提出しないと払い戻しに応じないことが多い。
もっとも、定額郵便貯金は例外で一定の据え置き内容の契約なので、もともと分割請求ができない結果、遺産分割の対象になる。
金銭債権だけが相続財産で有れば遺産分割はない。
なお、相続人の合意で遺産分割の対象とすることは可能である。一般の方はこの判例や民法の知識がないのが通常で、遺産分割対象と考えることが多いであろう。当職の経験からもそうである。
いくつかの重要判例実務がある。
◆共同相続人の一人が、相続財産中の可分債権につき、その相続分を超えて債権を行使した場合には、他の相続人の財産に対する侵害となるから、侵害を受けた相続人は、侵害した相続人に対して、不法行為に基づく損害賠償または不当利得の返還を求めることができる。(最判平16・4・20判時1859-61)
◆共同相続人が全員の合意により遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸脱し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる。(最判昭52・9・19判時868-29)
◆相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできない。(最判平4・4・10判時1421-77)
また、2019年施行改正法で実務上重要な点が追加された。
(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九〇六条の二
① 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。②前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九〇九条の二
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
3.可分債務
下記の非常に有名な連帯債務の相続に関する判例がある。
◆連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合に相続人らは被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において本来の債務者とともに連帯債務者となる。(最判昭34・6・19)
⇒ただし賃料債務は不可分債務である。
◆相続人のうちの一人に財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務は当該相続人にすべて相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定にあたり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。(最判平21・3・24民集63-3-427)
⇒ただし、相続債権者にとっては不意打ちになるのでその効力は及ばない。この点も下記の明文化が上記の改正でなされた。
(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)
第九〇二条の二
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
4.連帯債務
「被相続人Aの120万円のBとの連帯債務を相続人である子が3人で相続した時に120万円の責任があるのか」
上にも述べたが、次の指導的な実務への影響が大きかった1959年の最高裁判所判例がある。
「連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合には、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となる。(最判昭34・6・19)」
この結果、120万円の連帯債務がないので、債権者は子に対して120万円の請求ができず、子の相続分が均等とすると
120万円×3分の1である40万円
の限度で元の連帯債務者Bと連帯債務関係になり、
債権者は 40万円の支払いを求め得る立場に立つことになろう。
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