【遺産分割10年規制】とは? 相続法の改正 令和5年4月1日施行

1.続く「民法改正-私法秩序の再構成」…今回は相続登記の義務化等による早期安定

(1)遺産分割の基本

 民法の改正が続いており、先だっては、大きな債権法の改正があった。そして配偶者居住権などの相続編の改正もあった。成人年齢18歳にする改正も続いた。今回は、所有者不明の不動産という大きな問題があり、日本の国土開発において非常に大きなマイナスの影響を与えている。

 そんな中の一環として、令和6年度から、相続登記について怠けてると過料の処分があるということになった。しかし、令和5年度からは先行的にこの本文にある改正がなされた。相続登記義務については、別稿参照されたし。

 それは一言で言うと、「遺産分割10年規制」である。遺産分割の基本については、次のように民法960条がある。

(遺産の分割の基準)

第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

 要するに、相続人等の一切の事情を考慮する。このうちの誰が相続人かは、次のように法定相続人としての定めもある。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八八七条 
① 被相続人の子は、相続人となる。

② 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

③ 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八八九条 
① 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

二 被相続人の兄弟姉妹

② 第八百八十七条第二項〈子の代襲者〉の規定は、前項第二号の場合について準用する。

(配偶者の相続権)
第八九〇条 
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

そして、相続分の基本は次の通りである。

(法定相続分)
第九〇〇条 
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

(2)遺産分割の実際‥具体的相続分

 でも実際は、具体的相続分で遺産分割するのが普通であろう。例えば、親から子供2人のうち、一人がたくさん贈与を受けていた場合、配偶者が生前にかなり贈与を受けていた場合もあろう、いろいろある。逆に家が自営業をやっていて、子供達の内の1人がその自営業を被相続人の生涯ずっと手伝ってたというような場合もある。これらを考慮するのが遺産分割においては公平であろう。法の定めも次の通りである。

(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

 こういうような具体的に事情を考慮してやるとやっぱり公平であろう。身近な例でも、たくさんもらってる子供、大学進学の時に1000万もらってるとかいうような子供もいれば大学進学の時に家を出て行けと言われたものもあるわけで、やっぱり公平にやらないと正義に反しダメだろう。法文のように、これは特に期間制限ない。もらった方は全部考慮する。寄与分も被相続人に貢献したら考慮する。ここは遺留分制度とは違うことを注意する。第三者的な贈与だったら1年で、相続人だったら10年でと言う事はない。遺留分を侵害することを悪意、知ってればずっとそれ以前も考慮するが。

 

2.遺産分割10年規制の導入の理由

 しかしながら、その公平性を追求すると、なかなか相続が解決しない。民法は遺産分割、その場合についての期間制限はない。とりあえず、タンス預金などを分けるとか預貯金を分けるとかして不動産は誰の名義にするか、ちょっと後回しにしとくとか。

 大問題になったのは、東日本大震災(2011/3/11)の時にもう全然開発が進まなくなって、あっちこっちで、所有者不明不動産が発生していた。名義変更していないのと住所変更していないことが主な理由である。

 別稿で述べたように令和6年度から施行される過料で名義変更を促すほかに、この民法の改正からもアプローチしたいとなった。

 令和5年度施行の、遺産分割の調停のために裁判所に行った場合に、勿論相続人本人たち同士での話し合いでは具体的相続分を考慮できるが、裁判所ではもう10年過ぎたらこの新規定でやることになった。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)

第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 具体的相続問題じゃなくなくて、法定相続で行くよという10年規制が入った。ここからはですね。もっとも、上記の1号2号の例外を2つもうけたが。そうでなかったら、もう調停の場合は審判も含めてもう法定相続でやる。上記の特別受益や寄与分の公平性の制度は適用しないと。ようするに公平性をひとまず置いておいて、それを適用せずにやらないと進まないっていうことである。政策的なドライな規定である。

 実際は、効果があるであろう。相続人同士も疎遠になってる場合多いから。裁判所に持ち込む場合がさらに増える時代となっている。裁判所へ本人が調停申立する、こういうような時代である。

 もっとも繰り返しになるが、相続人同士でやる場合はこの条文の適用がないから、遺産分割協議書作成そのものについてはいつも私がやっていることは続く。紛争性の高くない場合はどうぞご依頼を。全国のどこでも行く。

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