4.遺言執行者の権限が強化
(1)遺言執行者の必要性
遺言者の死後、信頼できる人を遺言執行者に定めておくことは今日では必要性が高くなっている。前述のように法改正により迅速な遺言執行しないと紛争になり易くなっているからである。
通常は遺言書の中で指定するが、指定せずに遺言者の死後、相続人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることも可能である。
改正法では、権限明確化した新条文が追加された。
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第一〇一二条(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
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そして、遺言執行者の行為の効果について定めた1015条により、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」ことになる。
(2)就任、辞任と解任の明確化
遺言執行者は、就職を承諾するかどうかは自由であるが、承諾したときは、直ちにその任務を行う(1007条)。
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(民法1007条)
この時に、相続人の利害の対立があれば、妨害行為があったり、法定相続分を超える分は対抗要件主義になった法改正の関係で、執行が困難になる場合もあろう。後述の(3)を参照されたい。
遺言執行者の任務は、基本は自分自身で行う義務があるが、業務が多岐にわたるので第三者にこれを委任することが多かったが、その点も明文化された。
第一〇一六条(遺言執行者の復任権)
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
また、大事な業務に財産目録の作成がある。
第一〇一一条(相続財産の目録の作成)
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
しかし、1019条第2項により「遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」
また、同条1項により、「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。」
(3)遺言執行の妨害などから保護
遺言執行者には強力な権限があるがゆえに、時には一部の相続人と利害が対立したり、協力が得られなかったりして、執行業務が難しいこともある。
そのような遺言執行者を保護するために、次の遺言執行の妨害行為の禁止(民法1013条)が定められた。
第一〇一三条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
また、特定の財産を相続させるという遺言があれば、相続開始と同時に、当該財産はその相続人に帰属するという判例があるため、本来、遺言執行は不要であるが、前述のように法改正により対抗要件制度が採用されたため、遺言執行者は対抗要件を備えるために必要な行為をすることができ、また預金は解約ができると明確化された。
第一〇一四条(特定財産に関する遺言の執行)
…
2遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。…
以上のような法改正があったが、前述の899条の2が法改正で追加され、速やかに遺言を執行しなければ第三者の登記に負けるおそれがある。迅速な不動産登記と速やかに預貯金等の遺産を弁護士等預り金口座に移転することが大切であろう。当職もそうしている。
また、家族信託の選択もあるが、税務関係が未解決の現状では、一部の自称専門家に飲み込まれないようにすべきであろう。著名な税理士から当職も先だって、その選択については、くぎを刺された。
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