1.相続人による遺言執行者の執行行為への妨害が無効だが取引の安全で善意の第三者は保護される?
■事例
死亡したAには、相続人として配偶者Bと子Cがいる。Aの残した遺言には、①「私の所有する甲土地をBに相続させる」 こと、 ② 「私の所有する乙土地をDへ遺贈する」こと、 ③ 「遺言執行者としてXを指定する」 ことが記されていた。①や②に従った所有権移転登記がなされる前に、 Cが甲および乙についての自己の法定相続分にあたる持分2分の1をEへ譲渡し、登記を経由した。B及びDはそれぞれ、 甲·乙の所有権取得をEに対抗することができるか。
(1)旧法下実務では、①においては、公証役場実務を尊重して、「相続させる」の文言が遺言書にあれば、それだけで直接に権利が移転して、この事例の子Cの行為は全く法的効力がなかった。無権利の法理である。遺言執行者の有無にも関係なかった。
②については、遺言執行者がいるときは同様に解するが、遺言執行人がいないときは対抗問題としていた。
(2)改正相続法の下での実務は今始まったばかりでまだ確定していないが、いずれにしろ、遺言執行者の業務として戒めるならば、もはや相続においても177条の対抗問題になったので、登記の時間的前後優劣で権利取得を決する。中川総合法務オフィス代表のようにマメな法律家でないと遺言執行者は務まらないし、大手の信託会社・銀行は素人がやっているが、もう遺言執行者を引き受けても責任ある対応が難しいであろう。
2.遺言執行者を邪魔しても無効だが善意の第三者は救済されるのか。改正相続法実務はどうなるのか。
(1)遺言執行者の権限強化による遺言者意思の尊重
第一〇一三条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。2前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。‥‥
事例の①も②もこの条文の適用されるケースである。Eが保護されるためには、「善意」とあるが、通常はCが無権利であることを知らない意味であろう。もし、善意でなければ保護されないことになる。登記を経ていても結論は同じである。
先ほど述べたように、遺言執行者は相続発生後に素早く登記をする必要があるのはこの意味からも善意要件を満たさないことになる点からも重要である。
(2)特定財産承継(相続させる)と遺贈での差はあるのか。
①と②で結論や法律構成に差はあるのか。
第八九九条の二(共同相続における権利の承継の対抗要件)
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
Cは甲と乙の不動産について二分の一の法定相続分があるので、この事例では登記を備えてもDがいずれも遺言執行者有無について或いはBが無権利であることについての「善意」が不可欠であることに変わりはない。
なお、遺言執行者がいなければ、どちらも善意は関係なくなるので、177条の対抗問題として決することになる。
(一問一答 新しい相続法 商事法務、Before/After 相続法改正 弘文堂、ジュリスト 2018年12月号等参照)
◆この法改正が、被相続人の遺言と法定相続人の軋轢を解する妙薬であるかもしれないが、被相続人は自己の意思を死後に実現させるためには、ますます「信頼できる法律家」に遺言執行者を頼む以外になくなってきている。
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