『そして誰もいなくなった』( And Then There Were None)は、戦前のアガサ・クリスティの傑作推理小説の題名であるが、この世に天涯孤独で、まったく身寄りのない方は滅多にいるものでないが、たまたま相続人が誰もいなくなることや不明になることはあるものである。事実上は十分に現代社会ではありうるが、法律上も相続人が消えることはある。相続の放棄も含めてである。
これを講学上は「相続人の不存在」という。
特別縁故者に渡しても残れば国庫に入る。
1.相続財産法人と相続財産の処理
実務では急増している手続きである。2011年の申し立ては15,676件もあった。東日本大震災(2011/3/11)の関係もあった。
最近の統計では、相続財産管理人選任事件(令和2年1月から12月まで)新受件数は5818件であり,国又は地方 公共団体等からの申立ての割合が13%と増え続けている。「身寄りのない方」の死亡が増えているから。管理継続中の件数は、さらに多くて、1万1830件もある。以下は法の規定である。
(相続財産法人の成立)
第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
第九百五十三条 第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。
(相続財産の管理人の報告)
第九百五十四条 相続財産の管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
(相続財産法人の不成立)
第九百五十五条 相続人のあることが明らかになったときは、第九百五十一条の法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
(相続財産の管理人の代理権の消滅)
第九百五十六条 相続財産の管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2 前項の場合には、相続財産の管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。
(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があった後二箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 第九百二十七条第二項から第四項まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
(相続人の捜索の公告)
第九百五十八条 前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
(権利を主張する者がない場合)
第九百五十八条の二 前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
◆遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、本条にいう「相続人のあることが明かでないとき」には当たらない。(最判平9・9・12)
◆九五八条所定の公告期間内に相続人であることの申出をしなかった者については、たとえ右期間内に相続人であることの申出をした他の者の相続権の存否が訴訟で争われていたとしても、該訴訟の確定まで右期間が延長されるものではない。九五八条所定の公告期間内に申し出なかった相続人は、相続財産法人および国庫に対する関係で失権するので、特別縁故者への分与後の残余財産について、相続権を主張することは許されない。(最判昭56・10・30)
2.特別縁故者への財産分与
内縁配偶者や事実上の養子が含まれる。
相続放棄者にも認めた例がある(広島高裁岡山支部平18・7・20)
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
◆「その他被相続人と特別の縁故があった者」とは、生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者に該当する者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者をいう。(大阪高決昭46・5・18)
◆共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされないときに、二五五条により他の共有者に帰属する。(最判平1・11・24)
3.国庫帰属
(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
◆相続人不存在の場合において、特別縁故者に分与されなかった相続財産は、相続財産管理人がこれを国庫に引き継いだ時に国庫に帰属し、相続財産全部の引継ぎが完了するまでは、相続財産法人は消滅せず、相続財産管理人の代理権も引継未了の相続財産につき存続する。(最判昭50・10・24)
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