1.遺産分割協議の揉めない進め方

(1)遺産分割協議の当事者

当事者は、共同相続人、包括受遺者、相続分の譲受人、遺言執行者である。

・行方不明者 家庭裁判所によって、不在者の財産管理人を選任し、許可をもらって協議に参加する(25条・28条参照)。

・胎児 出産まで待つ

・相続開始後に遺言認知や死後認知の訴えによって相続にになった者がいる場合

相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権
第九百十条  相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

◆母の死亡による相続について、共同相続人である子の存在が遺産の分割その他の処分後に明らかになったとしても、910条を類推適用することはできない。(最判昭54・3・23)

(2)遺産分割自由の原則

当事者全員の合意があれば、法定相続分や遺言に反する分割も可能であり、判例実務も認めている。

しかし、自由なだけに、全員が強く自己主張をするとまとまらない。かといって、黙っていれば、声の大きいもの、エゴの強い人の言うとおりになってしまって故人の遺志に外れることも多くなる。相続人は必ず最低限の公正な主張はしましょう。

そこで、相続おもいやり相談室では、「9割納得すれば署名押印されたらどうか」といつも勧めている。それでもなかなか被相続人の財産なのに、勘違いして不労所得を当てにする情けない人が多い。苦渋の中で実務は毎日進行しているのだ。

(3)遺産分割の瑕疵と詐害行為

遺産分割協議に基づく合意も法律行為の意思表示の合致であるから、錯誤等の民法の意思表示規定の適用があろう。

◆遺言の存在を知らずに遺言の趣旨と異なる遺産分割協議の意思表示がなされた場合、遺言を知っていれば同様の意思表示をしなかった蓋然性がきわめて高いときには要素の錯誤がないとはいえない。(最判平5・12・16)

◆共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、相続の開始により共同相続人の共有となった相続財産の全部または一部を各相続人の単独所有とし、または新たな共有関係に移行させることによって相続財産の帰属を確定させるから、その性質上、財産権を目的とする法律行為ということができ、詐害行為取消権の対象となりうる。(最判平11・6・11民集53-5-898)

(4)遺産分割協議の解除

◆共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が右協議において負担した債務を履行しないときであっても、その債権を有する相続人は、五四一条によって右協議を解除することができない。(最判平1・2・9民集43-2-1)

⇒債務不履行による解除を認めない

共同相続人は、すでに成立している遺産分割協議につき、その全部または一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができる。(最判平2・9・27民集44-6-995)

⇒解除条件や約定解除権をつけることも可能。この判例の通り、遺産分割に最終期限はない。

2.遺産分割の具体的方法

(1)遺産分割の開始

共同相続における遺産の共有関係を解消し、遺産を構成する個々の財産を各相続人に分配する手続きが遺産分割である。

その結果、共有関係になる場合もあろう。

また、現物をそのまま配分する現物分割、遺産を売却してその代金を配分する換価分割、現物を特定の者が取得し、取得者は他の相続人にその具体的相続分に応じて金銭を支払う代償分割の方法がある。

当職は、遺言執行の現場で、最も換価分割が多い。

もっとも、これらが困難な時はやはり共有関係になる。

しかしながら、一般に共有関係は暫定的な処置であって、いつかは解消すべきものなので、なるべくは避けるのが賢明であろう。

また、土地はAに、家屋はBに、現金はCにといった遺産分割の方法を遺言で指定もできる。

もっとも、共同相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割も可能である。

遺産の分割の基準
第九百六条  遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

(2)遺産分割の時期

遺産分割は遺産分割の禁止がない限り、いつでも可能である。

遺産の分割の協議又は審判等
第九〇七条 
① 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

② 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

③ 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止
第九〇八条 
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

⇒他に、共同相続人全員の合意で遺産分割を禁止することも可能である。

共有物の分割請求
第二百五十六条  各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。

(3)遺産分割手続き

誰が=相続人の範囲、

何を=遺産の範囲、

どのような割合で=指定相続分・法定相続分を特別受益・寄与分で修正した具体的相続分、

どのように分けるか=分割方法

が遺産分割の基本的な流れである。

相続人の範囲および相続分の確定

⇒ 遺産の範囲の確定

⇒ 遺産の評価

⇒ 特別受益者とその額の確定

⇒ 寄与相続人と寄与分の確定

⇒ 特別受益及び寄与分を踏まえた相続開始時における具体的相続分の確定

⇒ 具体的相続分の割合に基づく遺産分割時における遺産分割取得分額の産出

⇒ 具体的な遺産分割の決定

(4)一人でできる預金口座の調査

被相続人の家屋や現金・通帳を事実上管理している相続人がいる場合に、他の相続人はその額がなかなかわからない。

私もそうであったが、現金は特にそうである。

預金については、次の2つの最高裁判決によって救済される。

つまり、相続人は被相続人の預金口座の取引経過を知ることができ、共同相続人が侵奪の疑いがあれば不法行為による損害賠償訴訟さえ起こせば、その怪しい相続人の預金口座の取引経歴を知ることができるのである。

◆預金者の共同相続人の一人は、他の共同相続人全員の同意がない場合であっても、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。(最判平21・1・22民集63-1-228)

◆顧客の取引明細書について、金融機関の守秘義務の対象とならない場合には、提出義務が認められる。(最決平19・12・11民集61-9-3364)

3.調停・審判による分割、訴訟で分割

(1)調停・審判による分割

遺産分割は通常は調停を先行させている(家事事件手続法274条・244条参照)。

11,724件2011年になり増加傾向にある。

審判も2,305件で増加している。

相続資格や具体的相続分に争いがあるときは、審判の前提問題で審判の既判力はない。

申立権者は遺産分割の当事者であるが、遺産分割請求権が債権者代位権の対象になるとした高裁判例がある。

(2)訴訟で分割

調停も審判も当事者次第であるから拒絶すれば、訴訟で国家権力による強制的解決になろう。

費用と時間や労力等がかなり負担になる。

しかも、いずれも法定相続分での決着になろうから、この点をすべての当事者が理解すれば、相続おもいやり相談室でいつも言っているように、協議に9割納得で判を押すべきであろう。

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NKoshin
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