相続に関する平成30年民法改正「遺留分」は金銭請求のみに変更され2020年以降は想定外の大きさで遺言・遺産分割実務に影響

1.遺留分制度の基本

遺留分制度は、自己の死後における財産の自由処分の法による制限である。今回の法改正を踏まえて解説する。貴重な経緯が解る改正案条文は後掲のとおりである。

(1)遺留分の帰属及びその割合

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、被相続人の財産のうち「直系尊属のみが相続人である場合」は三分の一、それ以外の場合は二分の一に相当する分から法定相続分をかけた割合で相続する権利があるとするのが遺留分である。

この場合に、遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とするものである。

(2)遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の範囲

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、その価額を算入する

もっとも、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、算入される。

また、負担付贈与がされた場合における遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とすることになる。

なお、不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

2、遺留分侵害額の請求

遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

遺留分侵害額は、1の遺留分から次の⑴及び⑵に掲げる額を控除し、これに⑶に掲げる額を加算して算定する。

⑴ 遺留分権利者が受けた遺贈又は民法第九百三条第一項に規定する贈与の価額

⑵ 民法第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

⑶ 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、民法第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務の額

3.受遺者又は受贈者の負担額

受遺者又は受贈者は、次の⑴から⑶までの定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から1の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

⑴ 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

⑵ 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

⑶ 受贈者が複数あるときは、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

4.遺留分侵害額請求権の期間の制限

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅するものとすること。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

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5.改正の経緯が解る貴重な「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」

第八章 遺留分(第千四十二条-第千四十九条

第五編第八章中第千四十四条を削り、第千四十三条を第千四十九条とする。

第千四十二条の見出し中「減殺請求権」を「遺留分侵害額請求権」に改め、同条中「減殺の」を「遺留分侵害額の」に、「減殺すべき」を「遺留分を侵害する」に改め、同条を第千四十八条とする。

第千四十条及び第千四十一条を削る。

第千三十九条の見出しを削り、同条中「これを贈与」を「当該対価を負担の価額とする負担付贈与」に改め、同条後段を削り、同条を同条第二項とし、同条に第一項として次の一項を加える。

負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

第千三十九条を第千四十五条とし、同条の次に次の二条を加える。

遺留分侵害額の請求

第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

受遺者又は受贈者の負担額

第千四十七条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

2 第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。

3 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

第千三十一条から第千三十八条までを削る。

第千三十条に次の二項を加える。

2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

第千三十条を第千四十四条とする。

第千二十九条の前の見出しを削り、同条第一項中「遺留分」を「遺留分を算定するための財産の価額」に、「控除して、これを算定する」を「控除した額とする」に改め、同条を第千四十三条とし、同条の前に見出しとして「(遺留分を算定するための財産の価額)」を付する。

第千二十八条中「として」の下に「、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に」を加え、「に相当する」を「を乗じた」に改め、同条各号中「被相続人の財産の」を削り、同条に次の一項を加える。

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

第千二十八条を第千四十二条とし、第五編第七章第五節中第千二十七条の次に次の十四条を加える。

第千二十八条から第千四十一条まで 削除

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