1.不動産に関する権利の承継と対抗要件の事例
Xが死亡した。Xの相続人は、 その子AとBである。Xの遺産には、甲地があった。 Bは、 甲について、 相続を原因としてXからBへとその所有権が移転した旨の登記を備え、Yに対し、甲を譲渡した。以下の場合、 Aは登記をしないで、権利の取得をYに対抗することができるか。
(1) Xは、 Aの相続分を4分の3とし、Bの相続分を4分の1とする遺言をしていた。
(2) Xは、甲をAに相続させる旨の遺言をしていた。
(3) BがYに甲を譲渡したのは、 Aが甲を取得する旨の遺産分割協議をした後であった。
(4) BがYに甲を譲渡したのは、 Bが相続放棄をした後であった。
(一問一答 新しい相続法 商事法務、Before/After 相続法改正 弘文堂、ジュリスト 2018年12月号等参照)
2.事例検討(相続改正法による)
【改正法】第八九九条の二(共同相続における権利の承継の対抗要件)
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
(1)改正法の影響の大きい事例である。上記の899条の2によれば、900条等の法定相続の権利を超える分を遺言で取得した場合も超える分については177条の対抗要件となり、法定相続分は従来の無権利の法理でその承継人にも登記なくして対抗できるが、この事例のように超える分については、登記なくして対抗できないことになる。相続債権者などの保護のためである。遺言執行がますます重要になろう。一般の親族はこの改正法理を知らず権利保全が難しいだろう。
(2)これも影響が大きい。「相続させる」旨の公証人実務の遺言に安心しているから。全く同じことが(1)と同様に言える。
(3)遺産分割協議後の権利取得については、従来から対抗要件になっていたので実務は同じになる。もっとも、理論的には、やはり法定相続の権利を超える分を遺産分割協議で取得したからということになろうか。
(4)これまでと同じである。第九三九条の相続の放棄の効力についての民法の定めは「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」としており、これは学術上の「絶対的な効力」と言えるからである。登記なくしてAはYに対抗できる。
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