姻族関係が終了すれば、夫の遺骨は先祖の墓から持ち出せるのか

1.民法 第5編相続の規定

(祭祀に関する権利の承継)
第八九七条 

① 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

② 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

(離婚による復氏の際の権利の承継)
第七六九条 
① 婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第八百九十七条第一項の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。

② 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。

(離婚等による姻族関係の終了)
第七二八条 

① 姻族関係は、離婚によって終了する。② 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。⇒死後離婚

(生存配偶者の復氏等)
第七五一条 
① 夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。

② 第七百六十九条〈離婚による復氏の際の権利の承継〉の規定は、前項及び第七百二十八条第二項の場合について準用する。

2.関連する判例

■生存者から分離した身体の一部と同様に、遺骨も有体物として所有権の目的となることができ、その所有権は相続人に属する。(大判大10・7・25)

■ 遺骸の所有者は、他の財貨の所有者と異なり、その所有権を放棄することができない。(大判昭2・5・27)

上記の2つは、戦前の民法下での判例で、遺骨についても戸主である家督相続人の所有に属するとしたもので、戸主制度をなくした現行民法下ではそのまま妥当しない。

遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属する。(最判平1・7・18)

3.姻族関係を終了させて、夫の遺骨を婚家の先祖の墓から持ち出そうとした事案

(1)事件の概要

:甲家の長男A男は. 父Bの死亡により昭和19年にBの家督を相続し甲家祖先の祭祀も主宰していたが、昭和28年にX 女と婚姻し, 昭和49年には甲家祖先の祭祀を主宰する承継者を指定することなく死亡した。 Aの葬儀の喪主はXがつとめ、 Aの焼骨は「甲家之墓」 と刻した墳墓におさめられた。Aの死亡後, 「甲家之墓」 の施主名義はXに改められ,法事についてXが施主をつとめてきた。夫も含めた甲家祖先の位牌をおさめた仏壇も礼拝してきた。しかし、夫の遺族Yとの折り合いが悪くなり、 Xは昭和57年6月に姻族関係を終了させる旨の意思表示 (民728条2項)をし、
甲家祖先の祭祀の施主はYがつとめることとなり, Yは昭和59年にAの位牌を除く甲家祖先の位牌および仏壇の引渡しを受けた。Xは新たに仏壇を購入してこれにAの位牌をおさめるとともに,新しいAの墳墓を建立してAの焼骨を改葬す
る計画を立てている。 Xは, 「甲家之墓」 に収蔵されているAの焼骨をXが引き取って改葬することをYらが妨害していると主張して, 上記の妨害をしないよう求める訴えをYらに対して提起した。

(2)東京高裁の判決(S62/10/8)

「以上認定の事実によれば, XはAの死亡に当たり主としてその葬儀を営み、これを埋葬するとともに同人の供養等その祭祀を主宰することを開始し,‥事実上Aのあとを受けてこれを主宰して来たが・・姻族関係終了の意思表示をした時をもって右祖先の祭祀を事実上主宰していくことについてはこれを止めるにいたったものということができる。
このように、夫の死亡その生存配偶者が原始的にその祭祀を主宰することは、婚姻夫婦 (及びその間の子)をもって家族関係形成の一つの原初形態 (いわゆる核家族)としているわが民法の法意 (民法739条1項 750条、戸籍法6条, 74条1号参照) 及び近時のわが国の習慣(たとえば、婚姻により生家を出て新たに家族関係を形成したのち死亡した次、三男等の生存配偶者が原始的に亡夫の祭祀を主宰していることに多くその例がみられる。)に照らし、法的にも承認されて然るべきものと解され、その場合、亡夫の遺体ないし遺骨が右祭祀財産に属すべきものであることは条理上当然であるから、配偶者の遺体ないし遺骨の所有権(その実体は、祭祀のためにこれを排他的に支配、管理する権利)は、通常の遺産相続によることなく、その祭祀を主宰する生存配偶者に原始的に帰属し、次いでその子によって承継されていくべきものと解するのが相当である。したがって、本件においてはXはAの死亡に伴い、 その祭祀を主宰する者として本件焼骨の所有権を原始的に取得していたものとみるべきであり,右焼骨が一たん甲家祖先伝来の墳墓に納められたとしても、この理にかわりはないからXがこれを争うY6 に対し右焼骨の引取り及び改葬についての妨害の排除を求める本訴請求は理由があるものといわなければなら・・・・・ない。」

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