1.改正相続法で財産関係で遺言書を残した方がいい代表的パターン

【第1位】全財産を1人に相続させたい場合

この場合は、法定相続人が一人の場合ではなくて複数いる中で、しかも一定額の遺留分を他の法定相続人が持っていることが分かっていても、特に一人に残す理由があったり、残したい気持ちが強い場合等である。

相続おもいやり相談室の当職も、遺留分の説明やそれに関係した特別受益等の説明を十分にしたのちに、この遺言書を書いたことは意外と多い。当職に背中を押してほしいから依頼に来る面もあろう。

この場合は、他の法定相続人から相続改正法による「遺留分侵害額請求」を受ける可能性が高い。実務でも多くあるが、改正相続法施行の前と違い、物件的効果はないのだ。遺言効力に影響はないのだ。

もっとも、生前贈与の通帳のコピーを取っておいたり、生命保険で対策を講じたり、できる範囲で手当てをしておく。実務ではほとんどないが、たくさんもらって物分かりのいい法定相続人には家庭裁判所での遺留分放棄の手続を依頼したりするのだ。

【第2位】財産を個別に相続させたい場合

例えば自己名義の自宅は配偶者に、賃貸収入用のビルは長男に、株式や証券等は次男になど、財産を個別に相続させたい場合には、遺言書が効果を発揮するのでおススメである。

この場合に、それぞれの財産の評価額が異なるため、不公平にならないように生命保険や預貯金で調整するなどの対策が必要になる。

【第3位】分割しにくい不動産がある場合

財産が金融資産のみであれば、分割しやすいため、遺言書がなくても特に問題ない場合が多いが、ほぼ不動産のみの場合で、相続人が複数いる場合は、分け方が簡単でない。

一般に不動産の相続方法には、特定の相続人が相続する「現物分割」、特定の相続人が相続し、他の相続人に代償金を支払う「代償分割」、不動産を売却し、そのお金を相続人同士で分け合う「換価分割」、相続人全員が各自の相続分に応じて共有する「共有分割」などがあって、当職も実務ですべて経験したが、何となく後味が悪い場合が多い。納得は難しいのだ。

特に、遺言書がない場合は、遺産分割協議になるがかなり紛糾する。遺言書があった方がいいだろう。

改正相続法前には、不動産に同居していた配偶者が追い出されるか若しくは家をもらった代わりに金融資産をほとんどもらえず乏しい年金生活になる場合が社会問題になっていた。

そこで、配偶者居住権の短期長期の制度ができたのだ。

なお、税理士のみがかかわったケースで、そのアドバイスから相続税などの税金面のみ重視して、土地と建物の所有者が違うことが当職への相談で多数あって、細分化された共有関係に陥った場合は悲惨である。

複数の共有にしておくと、権利関係のみならず、ミクロ経済関係でも不都合が生じやすい。例えば、賃貸物件の不動産では大規模修繕での銀行借入れなどで融資が面倒なことになりやすい。また、複数の賃貸物件の相続のケースでは、どうしても物件によって立地や収益力のみならず将来価値が異なるため、誰がどの物件を相続するかでスンナリと合点できないことが多い。

さらに、つい先ごろの相続おもいやり相談室の当職への相談で、地方公共団体の首長が新人に変わって大規模駅前開発を進めているうちに、複数の物件のうちの1件に「使用貸借契約」で親族が住んでいた場合は、疎遠な親族が相続すれば遅くとも相続時に出ていくことになることから、非常に立場が不安定になって、行政まで巻き込んでもめることになる。遺言で、そうならないように遺贈などしておくことは不可欠になってくる。

また、借地に建物を建てている場合には、借地権と建物所有権を同一人に相続させるような遺言書がないと別人への相続であれば転貸借関係となって契約解除などの主張を地主に許すことになる場合もある。

2.「囲繞地」のある場合は生前の対策して相続させる

周りの道路部分が第三者の所有である「囲続地」に不動産があって、普段は、周りの土地の所有者の方の好意で、無償で周りの土地を通らせてもらっている場合は、将来隣地の所有者が変わったら、通行を断られるおそれがある。

不動産調査の時に、現地調査が必要と実務で言うのはこのようなこともあるからだ。

この場合はなるべく今のうちに通行地役権を登記しておく必要がある。このことは遺言書にも記載しておく。

※(公道に至るための他の土地の通行権)⇒改正前民法では、囲繞地通行権と言った。袋地・準順袋地の所有者のためである。
第二一〇条 
① 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。② 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

3.動産として高額な財産がある場合

遺言実務をやっていると、金の延べ棒に出くわすことがある。株式も結構であるが、リーマンショック等の不景気の暴落があるからである。また、為替相場の変動が大きいと金融資産の価値の低下がある場合もある。不動産は比較的日本では安定しているが、平成時代の30年だけで上下の変動がかなりあった。具体的なことは差し控えるが当職もその被害にあっている。

それらの影響もあって、貴金属資産も持っておいた方がいいとか、ブランド物のバッグや洋服、高級外車などは価値が持続すると考えて、持っている場合がある。壺なども意外と価値あるものを持っておられることもある。

これらは、相続人で任意に分けてほしいといっても、なかなか簡単にいかないのだ。当職も動産の処分ではかなりいつも苦労する。自分がかかわった遺言でも苦労するが、そうでなくて遺言を他の方が書いたり遺言が自筆も含めてなかったりすると本当に大変である。

出来るだけ具体的に決めて、遺言書に書いておいた方がいいのだ。これがないと遺言執行者泣かせである。

例えば、ざっくりとでもいいから「その他一切の財産を○○に相続させる」と個人名でやってほしいとこだ。

なお、日本社会の地域的な習慣で形見分けは、法定相続人でなくて、身近にいた方が任意に話し合ってもらう場合も多いことにも注意する必要がある。

なお、海外ほどではないが、その財産的な側面が高い評価になってきている書籍、絵画や音楽などの著作権や発明などの知的財産権についても、特定の人に承継させるといいであろう。

4.祭祀承継等の動産や先祖から受け継いだ土地等不動産がある場合

遺言者の死後、葬儀や納骨、法要など祭祀の一切を取り仕切る人を「祭祀の主宰者」といい、遺言で指定できる。

【民法】第八九七条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

この場合に、通夜、葬儀、告別式などには実際上かなりの費用が掛かる。当職の経験で言うと100万円はすぐに消える。その額は別途、祭祀の主宰者に相続させた方がいい。揉めるのはあとから負担したものが請求したときである。

なお、最近増えている散骨(樹本葬や海洋葬など)の希望、永代供養、墓石への刻印、墓所の改葬などは遺言書に付言の形で書いてもよいが、目に触れられないことがあるから、生前に葬儀を任せるつもりのもがいたら伝えておくことや、エンディングノート等に書いておく。葬儀や納骨が終わってからでは遅いから。

先祖代々受け継いできた財産、特に土地については、相続による分散を避け、これまでの慣行どおり家を継ぐ人に承継させたいであろう。その場合に、遺言書はあった方がいい。

なお、孫やひ孫の代まで特定の血筋に受け継がせたい場合は、遺言書ではなく、生前の契約である信託(信託法91条で定めるいわゆる後継ぎ遺贈型受益者連続信託)の利用が考えられる。もっともこれは遺言による信託(遺言信託)でも実現可能であるが、手続きが面倒なので生前の方がよい。

なお、土地を分散したくない場合は、事業用の不動産や動産でも同じことである。事業を継続させるときに不可欠だからである。

5.マイナスの財産の承継

借金やローンなどの債務は実務上は、債権者の保護のために法定相続人に法定相続分どおりに相続されるが遺言書で別の方法を指定することも可能である。特に住宅ローン付きのマイホームを相続する人が、ローンを全額負担し、他の相続人には負担させない場合である。

ただし、この場合も債権者の保護の観点が必要になるので、債務を承継する人の資力につき銀行などの債権者の同意が必要になる。

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NKoshin
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